モニター心電図(ECGモニター)は、心臓の電気的活動を連続的に監視し、心拍数やリズム・波形の異常を早期に発見するための重要なツールです。本記事では、モニター心電図で確認可能な代表的な異常とその原因、症状、対応方法について解説します。
心電図モニターは入院病棟では多くの患者さんに使用されています。心電図モニターを使用することでさまざまなメリットがあります。
- どんな患者さんに心電図モニターをつける?
- 心電図モニターでわかること
- 洞性頻脈(Sinus Tachycardia)とは?
- 心房細動(Atrial Fibrillation, AF)とは?
- 心室頻拍(Ventricular Tachycardia, VT)とは?
- 頻発性上室性頻拍(Paroxysmal Supraventricular Tachycardia, PSVT)とは?
- 心室細動(Ventricular Fibrillation, VF)とは?
- 心室性期外収縮(Premature Ventricular Contraction, PVC)について
- 心室性期外収縮の原因と対応
どんな患者さんに心電図モニターをつける?
・自分で訴えができない患者さん
心拍数は疼痛や吸困難感の苦痛や発熱や脱水、貧血などの身体状況の変化を反映するため、心拍数を持続的にモニタリングすることで自分で症状の訴えができない患者さんの状態の変化をタイムリーに気付くことができます。
・心拍数やリズム異常の評価
頻脈や徐脈、afやVTなど循環動態に影響を及ぼす病態の場合はまずは薬物療法で改善を期待します。その薬剤の効果の評価や副作用が生じていないかを確認するために使用します。
・リスクのある治療や薬剤を使用しているとき
手術後や血管・内視鏡治療後の患者さんや輸血や抗がん剤などリスクのある薬剤を使用するときは急激に状態が変化する可能性があるため異常を早期発見するためにモニタリングします。
・重篤、ターミナル期の患者さん
いうまでもなく生命徴候の変化を確認します
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心電図モニターでわかること
- 心拍数(結局これが一番重要)
- 致死的な不整脈の有無
- リズムの異常
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洞性頻脈(Sinus Tachycardia)とは?
洞性頻脈は、洞結節からの正常な電気信号が過剰に早く発生し、心拍数が100 bpm以上になる状態です。モニター心電図では、リズムは一定でP波、QRS波、T波が通常の形状を示しながらも心拍が速く表示されます。
「220ー年齢」を超えるような頻脈の場合は、PSVTを疑います
洞性頻脈の原因
- 原因: 運動、ストレス、発熱、脱水、貧血、薬物の影響など。
- 観察項目: 血圧・心拍数の変動、発熱や脱水、疼痛、呼吸困難感などの不快症状の有無、動悸や息切れの症状をチェックします。
洞性頻脈への対応
生理的な原因であれば治療は不要ですが、脱水や発熱が原因であれば適切な水分補給や解熱剤を用いることが推奨されます。基礎疾患が疑われる場合は、その治療が必要です。
痛みや呼吸困難があれば原因を除去することで頻脈が改善することもあります。
洞性徐脈(Sinus Bradycardia)について
洞性徐脈は、洞結節からの電気信号が遅くなることで心拍数が50 bpm未満になる状態です。リズムは一定で通常のP波、QRS波、T波が観察されますが、心拍数がゆっくりです。
洞性徐脈の原因
- 原因: 健康な人やアスリートで見られる生理的な現象、睡眠時、薬物(ベータ遮断薬など)、迷走神経の刺激など。
- 観察項目: 心拍数の安定性、血圧の変動、めまいや失神の有無をチェックします。
洞性徐脈への対応
症状がなければ治療の必要はありませんが、めまいや失神がある場合は薬剤の調整や迷走神経刺激を避ける対策が必要です。
もともとの心拍数や内服している薬剤を確認し、本当にただの洞性徐脈なのか見きわめる必要があります。もともとより遅くなっていたり、薬剤の影響が考えられるなどの心配がある場合は、医師に相談しましょう。
ペースメーカーなどの治療が必要な状態を見落とさないように、他の徐脈性不整脈がないか確認しましょう。
心房細動(Atrial Fibrillation, AF)とは?
心房細動は、心房の興奮が無秩序になり、P波が見られない不整脈です。f波と呼ばれる細かい波が見えることもあります。R-R間隔が不規則で、P波がはっきり規則的に見られなければ心房細動を疑います。
心房細動のリスクと対応
- リスク: 血栓が形成されやすく、心原性の脳梗塞のリスクが増加します。長期管理には抗凝固療法が必要です(具体的にはワルファリン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなどが使用されます)。近年はワルファリン以外のDOACの使用が増えています。
- 観察項目: R-R間隔の不規則性、心拍数の変動、動悸やめまいの有無を確認します。
- 対応: 抗凝固療法(ワルファリン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど)、心拍を整える薬剤の使用(β遮断薬(メトプロロール、ビソプロロールなど)やカルシウムチャネルブロッカー(ベラパミル、ジルチアゼムなど))、重症例では電気的除細動やカテーテルアブレーションが有効です。
心房細動の治療におけるレートコントロール・リズムコントロールの薬剤について解説しているおすすめの動画です。
心室頻拍(Ventricular Tachycardia, VT)とは?
心室頻拍は、心室内で異常に速い電気活動が発生し、心拍数が100 bpmを超える状態です。規則的で幅広いQRS波が連続して見られます。心室頻拍は持続すると循環動態が保てなくなり、生命に関わるため、迅速な対応が求められます。
心室頻拍になり得る病態
心室頻拍は以下のような基礎疾患や病態に関連して発生することが多いです:
- 虚血性心疾患: 心筋梗塞後の瘢痕組織が異常な電気活動を引き起こし、心室頻拍が発生しやすくなります。
- 心筋症: 拡張型心筋症や肥大型心筋症などの心筋の異常が、心室の異常興奮を誘発することがあります。
- 心不全: 心不全の進行に伴い、心臓の電気的な不安定性が増加し、心室頻拍が発生しやすくなります。
- 電解質異常: 低カリウム血症や高カリウム血症などの電解質異常が心室頻拍を誘発することがあります。
- QT延長症候群: 先天性または後天性のQT延長症候群が原因で、トルサード・ド・ポアン(Torsades de Pointes)と呼ばれる形の心室頻拍が発生することがあります。
- 薬物の影響: 抗不整脈薬、抗うつ薬、またはその他の薬物の副作用が原因で心室頻拍が誘発されることがあります。 心室内で異常に速い電気活動が発生し、心拍数が100 bpmを超える状態です。幅広いQRS波が連続して見られます。心室頻拍は持続すると生命に関わるため、迅速な対応が求められます。
心室頻拍の対応と観察項目
- 対応: 血圧測定や意識レベルの確認をし、医師に報告します。除細動やアミオダロンなどの抗不整脈薬を使用しVTを止める必要があります。
- 観察項目: QRS波の幅と形状、患者の意識レベル、血圧の変動を確認します。
頻発性上室性頻拍(Paroxysmal Supraventricular Tachycardia, PSVT)とは?
PSVTは、心房または房室結節から突然に発生する速いリズムの異常で、心拍数が150〜250 bpmに達することがあります。発作的に突然始まり、比較的短期間で終わることが特徴です。P波はQRS波に隠れて見えにくいことが多く、急激な心拍数の増加が観察されます。
モニター心電図のみではPSVTの鑑別は困難です。というより鑑別する必要はあまりありません。
PSVTの種類
- AV結節リエントリー頻拍(AVNRT): 房室結節内で電気信号がループし、頻拍が引き起こされるタイプです。
- 房室リエントリー頻拍(AVRT): WPW症候群などに見られるように、副伝導路を通じて電気信号が再循環することで発生する頻拍です。
PSVTの原因と対応
- 原因: ストレス、カフェインの摂取、アルコール、薬物の影響、基礎疾患(例:WPW症候群)などが誘因となります。
- 観察項目: 突然の心拍数の上昇、P波の隠蔽、心拍のリズムの整合性、患者の自覚症状(動悸や息切れ)を確認します。
- 対応: 発作が自然に収まらない場合は、迷走神経刺激法(Valsalva法など)や薬物(アデノシン(商品名:アデノコール)、カルシウムチャネルブロッカー(ベラパミル、ジルチアゼムなど)、β遮断薬(メトプロロール、ビソプロロールなど))を使用します。場合によってはカテーテルアブレーションによる治療が有効です。
PSVTにおける十二誘導心電図の必要性
PSVTの評価には、十二誘導心電図が重要です。十二誘導心電図により、頻拍の発生部位を特定しやすくなり、副伝導路があるかどうかの判断も可能になります。また、他の不整脈との鑑別にも役立つため、正確な診断と適切な治療方針を決定するためには十二誘導心電図が必要です。
PSVTの原因と対応
- 原因: ストレス、カフェインの摂取、アルコール、薬物の影響、基礎疾患(例:WPW症候群)などが誘因となります。
- 観察項目: 突然の心拍数の上昇、P波の隠蔽、心拍のリズムの整合性、患者の自覚症状(動悸や息切れ)を確認します。
- 対応: 発作が自然に収まらない場合は、迷走神経刺激法(Valsalva法など)や薬物(アデノシン、カルシウムチャネルブロッカー、β遮断薬)を使用します。場合によってはカテーテルアブレーションによる治療が有効です。
PSVTについてもう少し詳しく知りたい方はこちらの動画おすすめです↓
心室細動(Ventricular Fibrillation, VF)とは?
心室細動は、心室内の興奮が無秩序に発生し、心筋が有効に収縮できなくなる危険な状態です。心停止の状態で、迅速なCPR・除細動が必要です。
心室細動の対応と観察項目
- 対応: 即座の除細動と心肺蘇生法(CPR)が必要です。すぐに人とモノを集めましょう。
- 観察項目: 無秩序な波形をみたら、10秒以内に意識喪失や呼吸停止の確認しCPR開始します。
心室性期外収縮(Premature Ventricular Contraction, PVC)について
PVCは心室から早期に発生する異常な電気信号により、幅広いQRS波が観察される状態です。PVCにはいくつかの種類があり、それぞれに緊急度が異なります。
PVCの種類と緊急性
- 単発性PVC: 通常、単発で発生するPVCで、健康な人にも見られることがあります。緊急性は低く、特に治療を必要としないことが多いです。
- 頻発性PVC: 短時間に複数回発生するPVCです。頻度が高くなると心室の負担が増し、心室頻拍へ進展するリスクがあるため、中程度の緊急性があります。
- 連発性PVC(Couplets): 2回連続して発生するPVCです。このタイプは心室の不安定性が高まる兆候であり、持続する場合にはさらなるリスクがあるため、早めの対応が推奨されます。
- 二段脈(Bigeminy): 通常の洞調律とPVCが交互に発生する状態を指します。これが続く場合には心臓の不安定性を示唆することがあり、中程度の緊急性があります。
- 三段脈(Trigeminy): 通常の2つの心拍ごとに1つのPVCが発生する状態です。このパターンは心室の不安定性を示す可能性があり、中程度から高い緊急性があります。
PVCの原因と対応
PVCは心室から早期に発生する異常な電気信号により、幅広いQRS波が観察される状態です。
心室性期外収縮の原因と対応
- 原因: 心不全や弁膜症などの心疾患、ストレス、カフェイン摂取、電解質異常など。
- 観察項目: PVCの頻度、動悸の有無、ストレスやカフェインなどのトリガー評価。
- 対応: 症状がなければ治療は不要ですが、症状がある場合は生活習慣の改善や薬物治療を考慮します。
心房性期外収縮(Premature Atrial Contraction, PAC)について
PACは心房からの早い電気刺激により、心拍が一部早まる状態です。健康な人にも見られますが、頻発する場合には注意が必要です。
PACの種類と対応
- 種類: 単発性PAC、頻発性PAC、連続したPAC(Couplets)、Bigeminy(交互に発生)、Trigeminy(三連発性)。
- 観察項目: P波の形状、PACの頻度、動悸や不快感の有無。
- 対応: 軽度の場合はカフェインやアルコールを減らすなどの生活習慣の見直しで改善します。頻発する場合には医師の診察を受け、必要に応じて薬物治療が行われます。
房室ブロック(Atrioventricular Block, AV Block)の分類
房室ブロックには、心房から心室へ電気信号が伝導される際の異常があります。それぞれのブロックの波形には特徴的な変化が見られます。 房室ブロックにはI度からIII度までの3段階があります。I度は電気信号の伝導が遅延する状態、III度は完全に伝導が遮断される状態です。
各房室ブロックの波形定義
- I度房室ブロック: PR間隔が0.20秒以上(心電図の小さい目盛り5つ、大きい目盛り1つ分)に延長するが、すべてのP波がQRS波に伝導されます。P波とQRS波は正常な形を示しますが、PR間隔が長いのが特徴です。
- II度房室ブロック(Mobitz I, Wenckebach型): PR間隔が徐々に延長し、最終的にQRS波が欠落します。これが周期的に繰り返されるため、リズムが徐々に遅れていくのが見られます。
- II度房室ブロック(Mobitz II型): PR間隔は一定で正常ですが、突然QRS波が欠落する状態が見られます。QRS波が抜ける不規則なパターンが波形上で確認できます。
- III度房室ブロック(完全房室ブロック): P波とQRS波が独立して発生し、それぞれが不規則に存在します。心房と心室が同期していないため、P波とQRS波の間に一貫性がなく、異なるペースで記録されます。
房室ブロックの対応と観察項目
- 対応:
- I度: 通常は経過観察で十分。
- II度(Mobitz I): 軽度の症状であれば経過観察。必要に応じて薬剤調整。
- II度(Mobitz II)、III度: ペースメーカーの挿入が推奨されます。
- 観察項目: PR間隔の長さ、QRS波の欠落、めまいや疲労感などの症状の有無。
QT延長症候群(QT Prolongation)とは?
QT延長は、心電図上でQT間隔が延長する状態で、心室の再分極が正常に行われていないことを示します。QT間隔は、QRS波の始まりからT波の終わりまでの時間であり、この間隔が長くなると致命的な不整脈のリスクが高まります。
QT延長の波形の特徴
- 特徴: QT間隔が通常より長く、特に450ミリ秒を超えるとQT延長と診断されることがあります。T波が延長され、U波が見られることもあります。QT間隔の長さは心拍数によって変わるため、正確な評価には補正QT(QTc)を用いることが推奨されます。
QT延長の原因
- 原因: 先天性のQT延長症候群(遺伝的要因)、薬剤(抗不整脈薬、抗うつ薬、抗精神病薬など)、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)などが主な原因です。特に薬剤によるものは、使用中の薬の見直しが重要です。
QT延長の対応と観察項目
- 対応: 薬剤の中止や調整、電解質の補正などが行われます。致命的な不整脈(トルサード・ド・ポアン)を防ぐためにβ遮断薬が用いられることもあります。
- 観察項目: QT間隔の長さ、T波の形状、電解質のバランス、使用中の薬剤を確認し、心停止のリスクがないか注意深く観察します。
モニター心電図の重要性と早期発見の価値
モニター心電図は、心室頻拍や心室細動といった致命的な不整脈を早期に発見し、迅速に対応するために非常に有効です。また、洞性頻脈や洞性徐脈などの軽度の異常も、患者の全体的な健康状態を把握するための重要な手がかりとなります。
モニター心電図を活用して心臓の電気的な異常をリアルタイムに監視し、適切な対応を行うことで、医療現場での患者ケアがより安全で効果的になります。心電図の異常を早期に発見し、適切に対処することで患者の生命を守ることが可能です。
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