ペニシリン系抗菌薬を知ろう~抗菌薬の選び方②

治療

前回の記事の敵を知ろう編では細菌について解説しました 今回の記事では抗菌薬でよく使用するペニシリン系についてわかりやすく解説します この記事を読むと抗菌薬の基礎となるペニシリン系についてちょっとだけ詳しい看護師になれます。セフェム系抗菌薬の選び方の記事はこちら。

ペニシリンの歴史

ペニシリンの産みの親

アレキサンダー・フレミング博士という研究者が1928年ころにペニシリンを発見しました 医学の歴史上最も重要な発見ともいわれています

ノーベル賞受賞

ペニシリン発見から10~20年後、第二次世界大戦で多くの兵士の命を救ったとしてアレキサンダー・フレミング博士がノーベル賞を受賞したのは有名は話です

戦争では創部感染症が問題になります 創部感染といえば黄色ブドウ球菌に活性があるペニシリンが大活躍しました

現在は黄色ブドウ球菌にはもう効かない

抗菌薬を学ぶうえで耐性菌の問題が重要になってきます 戦後、一般に普及しすぎてしまい、ペニシリンが使われすぎた結果、黄色ブドウ球菌に効かなくなってしまいました
もともとは黄色ブドウ球菌の研究を機に発見されたペニシリンですが現在は黄色ブドウ球菌にほとんど効かなくなってしまうなんて何とも皮肉ですよね…

しかし、黄色ブドウ球菌以外のグラム陽性球菌には現在もしっかり効くので、今もなお使用されています このペニシリンGを中心にペニシリン系が進化していきました

ペニシリン系の各論

ペニシリンG(元祖ペニシリン)

◎連鎖球菌 ◎肺炎球菌 ◎腸球菌 ◎リステリア ×ブドウ球菌 ◎横隔膜から上の嫌気性菌
※このスペクトラムは今後でてくるペニシリン系の基礎になるので重要です
菌名をみてよくわからないと思った方はぜひ前回の記事をご覧ください

赤字はグラム陽性球菌です グラム陽性球菌によく効きます
リステリアは自然界に広く分布しているグラム陽性桿菌ですが、腸球菌とセットで覚えていくとよいです 腸球菌とリステリアは◎ペニシリン系が効くが×セフェム系が効かないことで有名で臨床上も重要な細菌です

上のスペクトラムを見てわかるようにグラム陰性桿菌にはまったくもって苦手です 
横隔膜から下の嫌気性菌もカバーできません
ブドウ球菌 グラム陰性桿菌 横隔膜からの下の嫌気性菌を克服していくことを目指しペニシリン系の進化がはじまります

ペニシリンGの進化系アンピシリン

1960年代にペニシリンGに毛が一本生えたような構造のアンピシリンが登場してきます
商品名でいうとビクシリンです 
アンピシリンとペニシリンGのスペクトラムの違いは、大腸菌が半分くらい倒せるようになったことです
◎連鎖球菌 ◎肺炎球菌 ◎腸球菌 ◎リステリア ◎横隔膜から上の嫌気性菌 △大腸菌
あまり変わっていないように思えますが、グラム陰性桿菌に少しでも効くようになったのは大きな一歩となります

まだ横隔膜から下の嫌気性菌ブドウ球菌大腸菌以外のグラム陰性桿菌は苦手です
これらに効かない理由はβラクタマーゼという細菌が産生する酵素の影響が大きいといわれています

βラクタマーゼを阻害できるアンピシリン・スルバクタム

スルバシリンとかユナシンユナスピンという名前の商品名は聞き馴染みがあるのではないでしょうか
これらはアンピシリンβラクタマーゼ阻害薬スルバクタムがセットになった抗菌薬です

これでアンピシリンが苦手だった横隔膜から下の嫌気性菌ブドウ球菌大腸菌以外のグラム陰性桿菌が克服でき、グラム陽性球菌グラム陰性桿菌嫌気性菌をカバーできる素晴らしい抗菌薬が誕生しました

しかし… こんな便利な抗菌薬ですが、熱のある患者さんに乱用されるようになりました
その結果、大腸菌の半分くらいは耐性ができてしまいました 

グラム陽性球菌嫌気性菌を同時にカバーしたいときに使われます
両者とも口腔内にいる細菌なので誤嚥性肺炎の初期治療によくつかわれます

広域抗菌薬の代表 ピペラシリン・タゾバクタム

ペニシリン系のピペラシリンβラクタマーゼ阻害薬タゾバクタムがセットになった抗菌薬です
商品名はタゾピペゾシンです
これらは2014年以降に発売されたペニシリン系のなかでは新しい抗菌薬です

ピペラシリンの最大の特徴は緑膿菌に効くことです
ピペラシリン・タゾバクタムはアンピシリン・スルバクタム同様のスペクトラムに加えて院内感染症の原因として有名な緑膿菌などグラム陰性桿菌にもしっかりにも効くとても広いスペクトラムを持った抗菌薬です グラム陰性桿菌嫌気性菌を一緒にカバーできる貴重な抗菌薬です 

原因菌がわからないときの治療でタゾバクタム・ピペラシリンが第一選択となる状況

  • 腹腔内感染症(胆管炎など)
  • 人工呼吸器関連などの院内肺炎 
  • 深めの皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎や糖尿病性足病変)  とあまり多くはありません

他の感染症では?

  • 市中肺炎や誤嚥性肺炎ではグラム陰性桿菌がオーバーキル
  • 尿路感染症ではグラム陽性球菌嫌気性菌がオーバーキル
  • 蜂窩織炎などの一般的な皮膚軟部組織感染症ではグラム陰性桿菌嫌気性菌がオーバーキル 
    と無駄がでてきてしまいます

アンピシリン・タゾバクタムと同様に使いすぎると耐性を生じる危険性があるので使う場面は限られてきます
病棟では溶けにくいと嫌われがちなタゾピペですが、大切に扱いたくなりますよね

代表的な副作用

  • アレルギー 
  • 偽膜性腸炎
  • 腎機能障害
    これらはペニシリン系に関わらず多くの抗菌薬にとって副作用となります

まとめ|看護師が知っておきたい抗菌薬ペニシリンの基礎知識

ペニシリン系抗菌薬は、細胞壁を持つ細菌に対して非常に効果的な薬剤です。この記事では、ペニシリン系の作用機序や適応される感染症、具体的な種類、副作用、投与方法について詳しく解説しました。特に、アレルギー反応や副作用に対する注意が必要で、患者への服薬指導や副作用の早期発見が看護師の重要な役割です。

ペニシリン系抗菌薬を安全かつ効果的に使用するためには、薬剤の特性を理解し、適切なケアを提供することが求められます。患者の状態に応じた正しい投与と観察を行うことで、感染症の治療を効果的にサポートしましょう。

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セフェム系抗菌薬について

セフェム系抗菌薬を知ろう~抗菌薬の選び方③
これまの①敵(細菌)を知ろう編、②ペニシリン系を知ろう編に続いて病棟でよく使われるセフェム系の抗菌薬についてわかりやすく解説します 敵(細菌)を知ろう編、ペニシリン系を知ろう編をまだ御覧になっていない方はぜひそちらをご覧ください セフェム系...

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