呼吸状態を反映する採血検査「血液ガス分析」とは?臨床症例から学ぶ看護アセスメントのポイント

アセスメント

呼吸状態のアセスメントにおいて、血液ガス分析(Arterial Blood Gas Analysis, ABG)は不可欠な検査です。血液ガス分析では、動脈血酸素分圧(PaO2)、二酸化炭素分圧(PaCO2)、酸塩基平衡(pH)などを測定し、患者の呼吸機能や酸素供給の状態を把握します。本記事では、各検査項目と、臨床での具体的な症例を交えたアセスメントの活用法を解説します。


呼吸状態を反映する血液ガス分析とは?

1. PaO2(動脈血酸素分圧):酸素不足の有無を確認

  • 正常値:80〜100 mmHg
  • 意義:PaO2は血液中の酸素濃度を示し、組織への酸素供給状態を把握します。低い場合は低酸素血症の可能性があり、酸素療法の検討が必要です。

臨床症例

  • 症例1:肺炎による低酸素血症
    70歳女性が肺炎で呼吸困難を訴え、SpO2 88%で低酸素状態と確認。血液ガス分析でPaO2 60 mmHgと低値であったため、酸素投与を行い改善が見られました。このように、PaO2の低下は酸素療法の判断材料となります。

2. PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧):呼吸機能の低下を検出

  • 正常値:35〜45 mmHg
  • 意義:PaCO2は二酸化炭素の排出機能を示し、呼吸機能の状態を反映します。PaCO2が高い場合、呼吸が不十分である可能性があり、サポートが必要です。

臨床症例

  • 症例2:COPD患者の高二酸化炭素血症
    65歳男性のPaCO2が52 mmHgと上昇。NPPV(非侵襲的陽圧換気)による換気サポートでPaCO2が42 mmHgまで低下し、呼吸が安定しました。PaCO2の管理は、COPD患者の症状緩和に役立ちます。

3. pH(酸塩基平衡):アシドーシス・アルカローシスの判断基準

  • 正常値:7.35〜7.45
  • 意義:血液のpHは酸とアルカリのバランスを示し、呼吸機能や代謝機能の異常を反映します。

臨床症例

  • 症例3:呼吸性アシドーシス
    80歳男性が意識低下で救急搬送。pH 7.28(低下)、PaCO2 55 mmHg(上昇)が確認され、呼吸性アシドーシスと診断されました。気管挿管を実施し、pHとPaCO2が正常に戻りました。呼吸性アシドーシスの早期発見と対応が、患者の救命につながります。

呼吸性アシドーシスが代償されている状態とは?

呼吸性アシドーシスの代償機構とは、呼吸機能が低下して二酸化炭素(CO₂)が体内に蓄積し、酸性状態(アシドーシス)が生じた際に、腎臓が重炭酸イオン(HCO₃⁻)を再吸収・増加させることで血液のpHを正常に近づけようとする代償反応です。代償が進むことで、pHが正常範囲に近づく、または軽度のアシドーシスにとどまることがあります。

以下に、代償された呼吸性アシドーシスの臨床症例を挙げ、具体的な評価ポイントや経過を説明します。


症例:慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の代償性呼吸性アシドーシス

患者情報

  • 年齢:68歳
  • 性別:男性
  • 診断:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、高血圧
  • 主訴:息切れ、呼吸困難があるものの症状は長期間安定している

血液ガス分析結果

  • pH:7.37(正常範囲内)
  • PaCO₂:54 mmHg(高値)
  • HCO₃⁻:30 mEq/L(高値)
  • PaO₂:65 mmHg(低値)
  • SaO₂:91%(低め)

状況説明と代償機構の解説

この患者は長年にわたりCOPDに罹患しており、慢性的な換気不全(低酸素血症と高二酸化炭素血症)を呈しています。COPDなどの慢性呼吸不全では、呼吸によるCO₂排出が低下し、CO₂が体内に蓄積しやすくなります。この結果、PaCO₂が上昇し、呼吸性アシドーシスが生じます。しかし、長期間にわたってCO₂の蓄積が続くと、腎臓が代償的にHCO₃⁻を増加させ、血液の酸性度を抑え、pHが正常範囲に保たれることがあります。

このケースでは、患者のPaCO₂は54 mmHgと高値ですが、腎臓がHCO₃⁻を30 mEq/Lまで増加させることでpHは7.37(ほぼ正常)に保たれています。これは、腎臓による代償が働き、呼吸性アシドーシスが「代償された状態」にあることを示しています。


臨床的な意味と対応

  • 評価:代償された呼吸性アシドーシスは、慢性呼吸不全患者でよく見られます。pHがほぼ正常範囲に保たれているため、急激な症状悪化はないと考えられますが、COPDによる呼吸機能の悪化や、他の要因による急性増悪が生じた場合、急激なpHの変動を引き起こし、生命に関わる可能性があるため注意が必要です。
  • 対応:この患者は、急性増悪を予防するため、定期的な酸素療法や適切な薬物療法を継続することが重要です。また、酸素投与の際は過剰な酸素供給により高二酸化炭素血症が悪化するリスクがあるため、低流量の酸素療法が推奨されます。
  • 看護のポイント:慢性呼吸不全患者の代償機構を把握し、呼吸困難の訴えがある場合は、PaCO₂やpHの変動を予測したケアが必要です。血液ガス分析を定期的に実施し、代償状態が維持されているかを確認することで、患者の呼吸機能を安定させることができます。

このように、代償された呼吸性アシドーシスは、慢性呼吸不全患者において腎臓の働きによりpHが正常範囲に保たれた状態です。臨床では、患者の長期的な呼吸機能の維持や急性増悪の予防が重要となります。


まとめ:呼吸状態アセスメントでのポイント

  1. 症状悪化の早期発見:血液ガス分析により、呼吸不全や代謝異常の早期発見が可能です。
  2. 酸素療法・換気サポートの効果確認:酸素投与やNPPV、人工呼吸器の効果をPaO2やSaO2で確認します。
  3. 呼吸と代謝の総合評価:PaO2、PaCO2、pH、HCO3⁻を組み合わせて評価することで、総合的なアセスメントが可能です。

血液ガス分析は、呼吸不全の早期発見や治療の指針を提供し、患者の回復に重要な役割を果たします。呼吸アセスメントの質を高めるため、看護師はこれらの指標を理解し、迅速な判断と対応が求められます。

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