糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧性高血糖状態(HHS)は、どちらも糖尿病患者における急性の合併症で、迅速かつ適切な対応が求められます。看護師としては、患者の症状の評価や治療サポートが非常に重要です。それぞれの特徴や治療方法をガイドラインに基づいてわかりやすく解説し、看護ケアのポイントについても触れます。
まずはDKAとHHSについてざっくり確認しよう
DKAとHHSの違い
項目 | 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) | 高浸透圧性高血糖状態(HHS) |
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主に見られる患者 | 1型糖尿病患者 | 2型糖尿病患者 |
特徴 | インスリン不足によるケトン体蓄積とアシドーシス | 著しい高血糖と体内の水分不足 |
主な症状 | 吐き気、嘔吐、腹痛、クスマウル呼吸 | 強い脱水、意識障害、痙攣 |
治療の共通点
治療方法 | 説明 | 看護師の役割 |
体液補充 | 両方の状態において最も重要なのが体液の補充です。高血糖により脱水が進行しているため、まず生理食塩水を用いて体液を速やかに補充します。初期の治療は脱水状態の是正が最優先です。 | 輸液の速度と患者のバイタルサイン(血圧、心拍数、尿量など)を頻繁にモニタリングし、脱水の改善状況を確認します。 |
インスリン療法 | インスリンは血糖値を低下させるために使用します。DKAの場合はケトン体の生成を抑制し、血中の酸性度を正常に戻します。HHSの場合もインスリンは必要ですが、投与量や投与速度はやや異なります。 | インスリン投与中の血糖値の測定を頻繁に行い、血糖の急激な低下を防ぎます。また、低血糖症状の早期発見に努めます。 |
電解質の補正 | 血中のカリウム値が低下することがあるため、カリウム補充が必要です。特にインスリン治療を行うと細胞内へのカリウムの移動が促進されるため、低カリウム血症に注意が必要です。 | カリウムの補充状況を把握し、低カリウム血症の症状(筋力低下、不整脈など)の早期発見に努めます。 |
DKAの治療のポイント
治療項目 | 説明 | 看護師の役割 |
体液補充 | 初期に生理食塩水を速やかに補充し、血圧や腎機能に応じて補充速度を調整します。 | 患者の水分バランスを注意深く観察し、尿量やバイタルサインを頻繁に確認します。 |
インスリン投与 | 初期には持続的な静脈内インスリン注入(IV滴下)を行います。血糖値が200mg/dL程度まで低下した場合には、グルコースを含む輸液に変更しつつインスリンを継続し、血糖管理とケトン体の減少を目指します。 | インスリンの投与中は血糖値を頻繁に測定し、インスリンショックの兆候がないか注意します。 |
カリウム補正 | 血中カリウムが3.3mEq/L未満の場合、インスリン投与を始める前にカリウム補充を行います。 | カリウム補充中の患者の心電図モニタリングを行い、不整脈などの兆候を早期に発見します。 |
HHSの治療のポイント
治療項目 | 説明 | 看護師の役割 |
体液補充 | HHSでは、DKAと比べて脱水がより深刻な場合が多いため、大量の体液補充が必要です。補充には通常、生理食塩水などの細胞外液を使用します | 大量の体液補充に伴う心負荷を観察し、肺水腫などの兆候に注意します。 |
インスリン投与 | インスリン療法はDKAと同様に行いますが、HHSの患者は一般的にインスリンに対する反応が良いため、投与速度を調整しながら治療を進めます。 | 血糖値の変動に注意し、低血糖の兆候がないか観察します。 |
血栓予防 | 著しい脱水と高血糖により血液が粘稠となり、血栓リスクが高まります。そのため、抗凝固療法を行うことも考慮されます。 | 血栓予防のための看護ケアとして、適度な体位変換など行い、血流の改善を図ります。 |
具体的にDKAとHHSの治療のイメージをつけよう
DKA治療アルゴリズム
ステップ1:初期評価と診断
- 患者の状態確認:
- 意識レベル、呼吸、バイタルサイン(血圧、心拍数)を確認。
- 血糖値、血中ケトン体、血液pH、電解質(特にカリウム)を測定。
次へ進む条件:DKAの診断が確定(高血糖、ケトン体増加、酸性血症が確認される)
ステップ2:体液補充
- 0〜1時間:
- 生理食塩水(0.9% NaCl)を1〜1.5L静脈注入。
- 血圧や尿量の改善を確認。
次へ進む条件:脱水の改善が見られ、安定している場合
ステップ3:インスリン投与開始
- 静脈内インスリン:
- 初期にボーラス投与(0.1単位/kg)後、持続的に静脈内滴下で0.1単位/kg/時間で投与。
- 血糖値が200mg/dLに達したら、5%ブドウ糖を追加し、インスリンを続けながら血糖管理を行う。
次へ進む条件:血糖値が200mg/dL以下になり安定
ステップ4:電解質補正(特にカリウム)
- カリウム値を確認:
- カリウムが3.3mEq/L未満の場合は、インスリン投与前にカリウム補充を行う。
- カリウムが3.3〜5.0mEq/Lの場合はカリウム補充を開始(20〜30mEq/L)。
次へ進む条件:カリウム値が適切な範囲に維持されている
ステップ5:治療効果の評価
- 血糖値、血中ケトン体、血液pHの監視:
- 血糖値を2〜4時間ごとに測定し、ケトン体が減少していることを確認。
- 必要に応じてインスリンの投与量や電解質補充を調整。
終了条件:ケトアシドーシスが解消(血液pHが正常範囲に戻り、ケトン体消失)
HHS治療アルゴリズム
ステップ1:初期評価と診断
- 患者の状態確認:
- 意識レベル、バイタルサイン(血圧、心拍数、体温)、脱水の程度を確認。
- 血糖値、浸透圧、電解質を測定。
次へ進む条件:HHSの診断が確定(著しい高血糖、深刻な脱水、高浸透圧が確認される)
ステップ2:体液補充
- 0〜1時間:
- 生理食塩水(0.9% NaCl)を1〜2L静脈注入。
- 状態が安定するにつれてハーフ生理食塩水に変更し、補充を続ける。
次へ進む条件:脱水の改善が見られること
ステップ3:インスリン療法
- 静脈内インスリン投与:
- 初期にはボーラス投与せず、静脈内滴下で0.1単位/kg/時間で開始。
- 血糖値が300mg/dLに達したら、5%ブドウ糖を追加し、血糖管理を行う。
次へ進む条件:血糖値が300mg/dL以下に安定すること
ステップ4:電解質補正
- カリウム値の監視と補充:
- カリウムが低い場合、カリウム補充を開始し、心電図モニタリングを行う。
次へ進む条件:カリウム値が安定していること
ステップ5:治療効果の評価
- 血糖値、浸透圧、電解質の監視:
- 定期的に血糖値と電解質を測定し、必要に応じて治療を調整。
- HHSは血糖値管理よりも脱水の是正が優先されることを意識する。
終了条件:意識レベルの回復、血糖値と電解質が正常範囲に戻る
治療中の注意点
注意点 | 説明 | 看護師の役割 |
血糖値と血液pHの監視 | DKAでは、治療中に血糖値と血液のpHを頻繁に測定し、治療の効果を確認します。HHSでも血糖値のモニタリングが重要です。 | 血糖測定を定期的に行い、異常があれば即座に医師に報告します。また、患者の意識レベルもモニタリングします。 |
低血糖や低カリウム血症に注意 | 治療過程で血糖値が急激に低下したり、カリウムが低下しすぎたりしないように注意が必要です。特にインスリン治療を行う際は、カリウムの補充量やタイミングが重要です。 | 低血糖の兆候(冷汗、震え、意識混濁など)や低カリウム血症の兆候(筋肉の痙攣、疲労感)に注意し、早期に介入します。 |
最後に
DKAとHHSはいずれも命に関わる緊急事態ですが、迅速かつ適切な治療により、多くの場合は回復が可能です。治療の基本は、体液補充、インスリン療法、電解質の補正ですが、それぞれの患者の状態に合わせた細やかな対応が必要です。看護師としては、バイタルサインの監視、患者の症状の変化の把握、適切な報告と対応が求められます。
この記事を通じて、DKAとHHSの違いや治療方法について理解していただければ幸いです。看護師としての役割や注意点を意識しながら、患者に最善のケアを提供しましょう